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山の事故に思う

八ヶ岳で大学生パーティが遭難して、二人が亡くなった。前途ある学生が不慮の事故で命を落とすのはやりきれないものがある。家族はもちろん、同じクラブのメンバーは本当に辛いだろう。

 

私は高校から大学院にかけて8年くらいワンダーフォーゲル部やライミングクラブで山にのめり込んでいたけれど、幸いにして自分の前後の代では大きな遭難事故はなかった。今から思えば技術的にも精神的にも未熟だったので、単に運が良かったのだろう。

 

自分自身は、大学1年のとき仙台郊外の岩場の下部で人工登攀の練習をしていて、シュリンゲが解けて頭から落下、岩に頭をぶつけて救急車で運ばれた、というのが一番の事故だったかもしれない(それ以来頭が悪くなったことになっている)。ある沢で滝を高巻いているときに、滑って20mくらい落下、最後は完全にフリーフォールとなったけど、幸いザックを下にして背中から落ちたのでかすり傷で済んだ、というのがその次に「やばかった」ヒヤリ事故だっただろう。別の沢で比較的大きな滝を高巻いているときに、後ろに続いていた後輩が滑って落ちはじめたときの彼の顔は忘れられない。これも幸い、5mくらいで引っかかって止まって良かった。そのまま落ちれば命はなかったかもしれない。ガレた涸れ沢を登っていた時、落石があって先輩の手に当って下山後病院直行したこともあったけれど、これも頭だったら怪我ですまなかったかもしれない。

 

もう30年も前になるけど、今でも心に引っかかっているのは、同じ寮にいたI君だ。彼は山登りの経験者だったので、うちのクラブに入るように先輩と強く勧誘した。そのとき、どういうわけかI君は渋っていて、結局うちのクラブよりももっと難易度の低い山歩きをする別のサークルに入った。それから2年後くらいの春、そのサークルで山スキーをしていたI君は沢に落ちて、雪渓の隙間に吸い込まれてしまい、そのまま帰らぬ人となってしまった。あのときうちのクラブに入会していたらもっとリスクの高い山行をしていたはずだけど、結果的には彼は命を落とさなかったかもしれない。

 

大学卒業してから数年後、後輩が滝を登っていて、浮石を掴んでしまい落下、命は取り留めたけど後遺症が残ったと聞いた。一歩間違えば自分達も同じ目にあっていても全く不思議ではなかったので、とてもひとごとではなかった。2年生のときに日高の沢で行く手を崩壊した雪渓に阻まれて、雪渓を支点にして懸垂下降したり、ガレた沢の中で落石に怯えながらビバークしたり、後輩が高巻き中に登るのも下るのもできなくなって崖にへばりつき、救助に苦労したことも思い出した。

 

こうして振り返ってみれば、沢登り中に危ないことが多かったのだけど、雪山でも遭難まではいかない「ヒヤリ」は結構あった。蔵王で完全に迷ってリングワンデリングしたり、北海道のムイネ山という夏ならなんてことがない低山で吹雪にあって雪洞ビバーク、一夜明けたら一緒に登っていた高校ワンゲルの顧問の先生のスキーが流されていたり、ニセコでオフピステスキーしていて足下から数100m崩れて危うく雪崩に巻き込まれそうになったり。利尻岳に春スキーに行ったときに、仲間が急斜面を数100m滑落したときは自然と止まったのだけど、途中で岩にでもぶつかったら大怪我していただろう。

 

あとから振り返ってみれば、遭難するかしないかは紙一重のことが多く、その直前までは自分達が遭難するなんてたいてい思いもしていない。ちょっとした判断ミスや無理が結果的に事故に繋がるという事例は山程ある(むしろほとんどの遭難事故は難易度の低いところで起きているだろう)。「過信しない」「慎重に行動する」「危ないと思ったら引き返す」と言うのは簡単だけれど、いざ実行するのはそんなに簡単なことではない。

 

今回遭難した大学生パーティーのリーダーはヒマラヤ6000m級の経験もあるようなので、明らかに当時の自分たちよりもスキルがあったのだろう。新人の冬山トレーニングのつもりの山でも一瞬で命を落とす。それが山の怖さでもある。

 

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 高校卒業したときにオーダーした山靴